CIDPとともに生きる
CIDP(慢性炎症性脱髄性多発根神経炎)の症状が現れていると、普段の生活も困難になる場合があります。くらしの中のさまざまな場面で、これまでできていたことができなくなったりすることがあると思います。
でも、手足の筋力低下、歩行障害、疲労などのCIDPの症状があるからといって、大切な人とのつながりが終わるわけでも、友達作りができなくなるわけでもありません。
とはいえ、これまでとやり方を変えたり、友人や家族にCIDPのことを話さなければいけないことも出てくるでしょう。ここでは、CIDPに関わらずこれまでの人間関係を保ったり、新しく広げるためのアドバイスをいくつかご紹介します。
制約があることを受け入れ、どこかで線を引く
CIDPで体が動かしにくくなったり、思うようなことができなくなったということを認めることは辛いかもしれません。しかし、それを認めることで、「CIDPがある自分」として、いろいろな物事に取り組むことができます。
例えば、あなたが友人たちとウォーキングに行き、一緒に昼食を取ろうという話が持ち上がったとしましょう。残念なことに、あなたにはウォーキングをする元気がありません。でも、だからと言って楽しい昼食まで断る必要はありません。たとえ部分的にではあっても、友人同士の集まりに参加することができます。
自分の体は何ができて何ができないかを知っておくと、自分で線引きができます。CIDPによってある行動が難しくなっているときに、それを控えた方が良いのか、それともやり方を変えればできるのかを判断することができます。病気の進み具合や治療、あるいはその日の体調によって、こうした線引きが変わっていくこともあるでしょう。
あなたの今の体調を周囲が知らないこともありますので、いまの状況を伝えておくことも大切です。
CIDP患者のミシェルさんは、症状によって集まりに参加できないこともあると言います。
「疲れてしまったり、とにかく体調が優れないこともあります。そうなったら直前で約束をキャンセルすることになります。こういうときに、周囲に自分の状況を伝えておかないと、あとで人間関係が気まずくなります」
その一方で、ミシェルさんはCIDPのおかげで、むしろ人間関係が良くなったこともあると言います。
ミシェルさんは、CIDPによる不調が起きる前は、両親とそれほど仲が良いとは言えない間柄だったとのこと。しかし、両親がミシェルさんを世話してくれるようになり、両親との人間関係にも徐々に変化が起きました。
「それまでは、『どうして私がCIDPに?』と思っていました」と、ミシェルさんは言います。「しかし、今では『これはもう自分に起きてしまったことなんだ。この病気と向き合わなければならなくなって、はじめて親のありがたさに気づくことができたし、母とも良い関係を築けるようになった。CIDPにならなければ気づくことはできなかったかもしれない』と思えるようになりました」
友人や家族にCIDPについて説明する
CIDPは希少な病気です。そして、CIDPが患者さんの体にどんな変化をもたらすかは、患者さんによって違います。この病気をよく知らない人は、あなたの症状を誤解したり、あなたが抱えている試練に気付かないかもしれません。例えば、手足の痛みやしびれなど、一部の症状は見た目ではわかりません。そこで、身近な人には前もって症状を説明しておくと、あなたがいまどんな状態なのか、どのような思いをしているのか、腕や足を使う動作にどう影響するかを、より正確に理解してもらえるようになるかもしれません。
例えば、友人に「CIDPは手足の神経に影響を及ぼすので、外からはわからないかもしれないけれど、手足に焼けるような痛みが生じる」ということを説明しておけば、実際に痛みが出て一緒に行動できなくなったときにも相手の気分を害することなくその場を離れることができるでしょう。
CIDPのよくある兆候・症状:
- 手足のちくちくした痛みや感覚障害
- 手足の筋力低下
- 平衡感覚の喪失
- 歩行障害
- 手足の焼けるような痛み
- 物を持ち上げることができない
- 疲労感
交友関係はすこし狭くなったかもしれないけど、
前よりも良い関係を築けています。
CIDP患者のクリスタルさんは、友人の中には病気のつらさを信じてくれない人もいたと言います。「あなたにどこか悪いところがあるなんて思えない」。クリスタルさんは何度も言われた言葉を思い出します。「しかし、痛みは外からはわかりません。筋肉のけいれんも、しびれも、チクチクした痛みも目には見えないのです」
どんなに努力しても、必ずしも友人全員が理解し、共感してくれるとは限りません。クリスタルさんはそうした経験をしてきました。「CIDPのような病気を患ってしまったときこそ、誰が本当の友人かがわかります。交友関係はすこし狭くなったかもしれないけど、前よりも良い関係を築けています」
新しく出会った人にもCIDPを説明する
誰に何を打ち明けるかは、100%あなた次第です。人生で新たに出会った人に自分のことを打ち明けるのは、とても勇気のいることだと思います。ですが、強がって本当の姿を隠しているよりも、自分のことを素直に話し、困っていることを率直に打ち明けることで、関係性を深められることもあります。
CIDPについて長々と、何度も説明するのはかえって逆効果になってしまうこともあるかもしれません。「病気のせいで、時々歩行障害が起きることがあって」などと簡単に説明するだけで十分な場合もあるでしょう。
CIDPであっても恋愛やデートをあきらめない
恋愛に限らず、誰かとの親密な関係は人生の大切な一側面ですが、これにもCIDPが影響する場合があります。CIDPのために多少行動を変える必要があったとしても、決まったパートナーがいる方もそうでない方も、恋愛を諦めてしてしまう必要はありません。
クリスタルさんは既婚者で、良き理解者であり、愛情深い夫がいてくれることがどんなに幸せかを実感しています。「いつもそばにいるとかいないとか、そんなことは問題ではありません。『ソファの向こう側に君の姿が見えて、一緒にいるんだとわかるだけで僕は安心』そう言ってくれる夫がいる。そのことが幸せなんです」
もしあなたが独身でデートを楽しんでいるなら、最初の数回はCIDPの症状についてどの程度打ち明けるか慎重になるかもしれません。独身のミシェルさんはCIDPがお付き合いに影響したと言います。「自分の病気をいつ打ち明けるか、それをどう思われるか考えなければなりません。重い疾患を抱える人なら誰でも悩む問題だと思います」
親しくなってから、相手に自分のことをもっと知ってほしいと病気を打ち明ける方もいるでしょう。反対に、あとで伝えて隠していたように思われるのを嫌って、早い段階から自分の病気を包み隠さず打ち明けたい方もいるでしょう。
心を開くことを忘れない
CIDPの診断を受けたばかりでも、長くこの病気と付き合ってきたとしても、現在の交友関係の保ち方や新しいつながりについては、これまでとは違った考え方が必要かもしれません。
例えば、オンラインの友達作りアプリやCIDPの患者会などを通じて輪を広げる方法もあります。
クリスタルさんもミシェルさんも、患者同士の支え合いに価値を見出しており、アメリカの患者団体であるGBS | CIDP Foundation Internationalのボランティアをしています。
クリスタルさんはこの組織のほかにも、Rare Action Network、National Organization for Rare Disordersを通じてたくさんの支援を受けたそうです。
打ち明ける理由を思い出そう
自分の症状や行動の制約を誰かに打ち明けることは、決して進んでしたいとか、楽しい気持ちで行いたいことではないかもしれません。受け入れてもらえないかもしれないと躊躇してしまうのも当然でしょう。
しかし、そもそもなぜ、なんのために打ち明けるのかを思い出しましょう。それは、自分の人生と関わり合いのある人たちに、自分の状況を理解してもらうためです。そうすることで、この先も楽しい時間をともにすることができるのではないでしょうか。
JP-VDJMG-24-00087(2024年10月作成)