ロリーさんがCIDPを乗り越えるまで

ロリーさんは持ち前の向上心と集中力、そして知力でCIDP(慢性炎症性脱髄性多発根神経炎)に正面から立ち向かっています。
ですが、ロリーさんの活躍の本当の鍵は、病気を受け入れ、それまでの考え方を変えたことにあります。

ロリーさんは人生にただ甘んじることはありませんでした。経済的に余裕のない13人兄弟の家庭で祖母に育てられたロリーさんは、家族の中で初めて大学に行きました。その後弁護士になり、30年近くパートナーと良い関係を築き、あちこちを旅行し、人生は順風満帆に思えました。

CIDPに襲われたのはそんな時です。「私の世界は一瞬で変わり、最初は孤独感と恐怖感におそわれました」。ロリーさんは当時を振り返りながら、「頼れるのは現在も主治医である神経科医ただ一人だった」といいます。

ですが、当初感じた孤独や恐怖は次第に薄らいでいきます。それは担当神経科医のおかげでした。ロリーさんはその医師をCIDPと付き合ううえでのパートナーだと考えています。担当神経科医は診断を下した後、ロリーさんに精神神経科医を紹介しました。当時、ロリーさんはその理由がわかりませんでしたが、ほどなくして、CIDPのような病気にはさまざまなメンタルヘルスの問題が伴い、意識の変化が必要な場合があることを理解します。

病気を受け入れるには、時間的な猶予と場所が必要でした。

-CIDP患者、ロリーさん

おそらく、ロリーさんにとって前に進むために一番大切だったことは、体を衰弱させる病気を抱えたという事実を100%受け入れることでした。「病気を受け入れるためには、時間的な猶予と場所が必要でした」とロリーさんはいいます。例えば、立ったままシャワーを浴びることが難しくなり、バスタブに座って入浴する必要性に気付かされたことがありました。ロリーさんにとって、座ったままの入浴は気持ちの面で受け入れがたいものでした。それは、自分の病状が、おそらくこの先解消することはない新しい段階に入ったことの証明だったからです。

「だとしても、おかげで人生はむしろ気楽になった」とロリーさんはいいます。

鍵となったのは、ものの見方を変えたことでした。「一度考えを変えてしまえば、CIDPをこう捉えることができるようになりました。『これが新しい人生で、まだまだチャンスはある。ただ生きながらえるだけでなく、いきいきとした人生を送ろう』」

ロリーさんは、在宅勤務を認めてくれた雇用主のおかげで弁護士としての仕事を続けています。また、他のCIDP患者さんを助け、調査に協力することによって、新たな充足感を見つけることができました。最近ではCIDP患者の日常生活を世の中の人に知ってもらうためのインタビューグループにも参加しています。このほか、ある企業がCIDP患者さんのために設計した新しいサポート器具のユーザーテストや調査にも協力しています。

「力をもらっている。そんな気持ちで会合に出向いたりすると、気持ちが変わります。とてもコントロールできないように思えていたことも、なんとかなる気がしてきます」

皮肉にも、CIDPを患ったことによってむしろメンタルヘルスは良くなったとロリーさんはいいます。その日のうちに洗濯が終わらないとか、ささいなことを手放す術を覚えたからです。症状の進行によって、すべてのCIDP患者さんに当てはまる話ではないかもしれませんが、ロリーさんは自分の体と心の健康が表裏一体で結び着いてきた感覚があるそうです。「心がストレスを抱えているときは、体にも痛みがあります」

ロリーさんは、自分のためにならない一部の人間関係を手放すことも学びました。それまでにつきあっていた人の中にはロリーさんの病気にどう対応すべきかわからない人もいて、なんとなく距離が生まれたそうです。当初はこうした人間関係もつなぎ止めようと努力しましたが、誰かを追いかけることはロリーさんの心にも体にも負担をかけました。

これまでの人間関係を諦めるのは本当に辛いことですが、ただ生きながらえるだけでなく、いきいきと人生を送るためには必要な決断でした。

- CIDP患者、ロリーさん

「相手が自分の輪の中にいないのであれば、それは本当にいないのです。これまでの人間関係を諦めるのは本当に辛いことですが、ただ生きながらえるだけでなく、いきいきと人生を送るためには必要な決断でした」
ロリーさんは、自分の人生に居続ける努力をしてくれた人たちのために、中には励ますことは上手でも、痛みや孤独感に寄り添うことが苦手な人がいることを受け入れなければなりませんでした。

支えてくれる仲間を見つけるか、作る必要があります。

-CIDP患者、ロリーさん

「支えてくれる仲間を見つけるか、作る必要があります」とロリーさんはいいます。本当に必要な共感と理解を手に入れるために、ロリーさんが参加したのがGBS | CIDP Foundation Internationalが主催する「コーヒーチャット」でした。ウェブサイトを通じて専門家セミナーにも参加し、CIDPの困難に立ち向かうための情報を得ることができました。最近では、ワシントンD.C.で開かれた会合で同じCIDP患者さん同士で仲間意識や連帯感を感じ、うれしかったといいます。そして、幸運にも、ロリーさんにはなんでも安心して打ち明けられる医師がいます。

事実を受け入れ、自分の考え方を変えたことによって、ロリーさんは人生を見直すことができました。だからこそ、自らの境遇を乗り越え、CIDPを抱えながらも輝いています。

ロリーさんはインタビューで次のように話しています。

「世の中の誰かがこの話を聞いて孤独感から抜け出せたら。介護者がこの病気が人生に与える影響をもっと知ってくれたら。医療従事者が僕らがただの患者じゃないことを理解してくれたら。それが僕の願いです。僕らは医師とパートナーになれます」

JP-VDJMG-24-00087(2024年10月作成)

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