ペルーのマチュピチュ遺跡の頂上で記念撮影のポーズを取ったとき、ルシールさんはまた一つ偉業を達成しました。頂上に到達するために、数人の仲間の後押しが必要だったことは確かです。ですがルシールさんはカメラに向かって誇らしげな笑顔を見せました。担当医は「CIDP患者のルシールさんが言ってることを信じるには、証拠写真が必要だからね」といたずらっぽく笑います。
CIDPによってしびれや筋力の低下、平衡感覚が失われることを知っている人には、ルシールさんの偉業は信じられないかもしれません。ですが、ルシールさんのことをよく知る人にとっては何の驚きもありません。
「私は負けん気の固まりなので。CIDPに降参するなんでとんでもない」
ルシールさんの前向きさは、あらゆるCIDP患者さんにとっても刺激になるでしょう。
診断までの長い道のり
ルシールさんが最初に受診した医師は、しびれや平衡感覚の問題は糖尿病が原因だと考えました。ですが症状は悪化を続け、やがて別の病気が進行していることに気付きます。
「医師は私の腕をつかみ、目を閉じるように言いました。
すると私はまっすぐに立っていられません。いまにも倒れてしまいそうでした」
その医師はCIDPに詳しくなく、診断することはできませんでした。その結果、ルシールさんの症状は5年ものあいだ悪化の一途を辿ります。
しかし、偶然にもその医師から紹介された医師がCIDPを熟知していたことで、ルシールさんはついに正しい診断を受けることができました。
「もう少し早く、診断を受けられていれば……」とルシールさんは話します。
CIDPの診断にたどり着く前に何人もの医師を受診する方もいます。すべての医師が必ずしもCIDPを熟知し、必要な検査を提案してくれるわけではありません。
私は負けん気の固まりなので。CIDPに降参するなんてとんでもない。
診断を受け止め、困難を受け入れる
強い意志を持つルシールさんは、CIDPと正面から向き合うことを決断しました。病気がもたらす制約にとらわれるのではなく、たくさんのやりたいことや、CIDPが自分のライフスタイルに与える影響をどうやったら抑えられるかに目を向けたのです。
定期的な治療スケジュールをしっかり守ることで、楽しいと思える物事を続けられています。
「CIDPに本当にやっつけられてしまうまでは、病気だからといってくよくよすることはありません」
ルシールさんは大の旅好きです。冒険心旺盛なルシールさんの旅はレベルが違います。診断を受けてからマチュピチュの頂上に登り、モロッコを訪れ、エジプトのギザの大ピラミッドに登り、トルコでは熱気球に乗り……世界中のエキゾチックな場所に足を運んでいます。
もちろん、CIDPが身体能力に影響していないわけではありません。最近は、ある程度の距離を歩くときはいつも杖を使っています。両脚が不安定なため、階段を下りるのも一苦労です。それでもルシールさんが旅するときは、ふつうのバケーションのようにのんびりくつろぐことはありません。
CIDPの症状によって、素早い動きは難しくなりましたが、ルシールさんは屈しません。自分の症状を自分でコントロールし、子どもやきょうだいからの介護を受けながら動き続けています。
息子さんとイギリス旅行をしたときは、ルシールさんは2日目に転倒しましたが、二人で約80Km歩きました。「息子には本当に助けられています。私が疲れやすいことを知っていますし、階段を下りるときは心得たもので、私の前に立って落ちないよう支えてくれます」
ルシールさんは適切なサポート体制の大切さを実感しています。ルシールさんの息子さんやきょうだいだけでなく、古い友人たちや介助犬の助けを借りることで、安心感を得ることができます。
CIDPに本当にやっつけられてしまうまでは、
病気だからといってくよくよすることはありません。
自分の好きなことに意識を向けているルシールさんは、実のところ脚力は以前より弱っていますが、本人は自分がCIDPであることをよく忘れるといいます。
「CIDPだからといって何かをあきらめることはないけれど、慎重に行動し、歩くときはステッキや杖を忘れないようにと、自分に言い聞かせています」
ハイキングのときは、「目的地にたどり着くのは私が最後かもしれないけど、それでも大きく離されることはありません」。ペルーで経験した下山は困難と恐怖を伴う冒険でしたが、目標を設定しながら着実に進みました。「私が恐怖に屈することはありません」
CIDPがどう影響するかは人によって違います。
旅行や身体活動の際は、自分の体に注意を払い、事前に医療者に相談することが大切です。
前向きな人生観に後押しされ、ルシールさんの世界をめぐる旅はまだまだ続きます。しかし、それにはたくさんの資金が必要です。数十年続けた保険代理業から引退したルシールさんは、現在スポーツイベントやコンサート、野球の春季キャンプの売店で働いています。
CIDPの症状によって落ち込みそうになったときも、自信が「この困難は乗り越えられる」と背中を押してくれるといいます。
「CIDPとともに生活するには、一日一日を生き抜くことが大切。良い日も、悪い日もね」
ルシールさんは自分の経験を振り返り、こう話します。
「たとえCIDPを抱えていても、できる限り自分が好きなことを続けるつもりです」。
いつもそれが叶うわけではないことを理解しつつも、ルシールさんは自分らしく生きることをあきらめません。
いまもいくつもの冒険旅行を計画中で、その一つはアマゾン川のカヌー下りだそうです。
JP-VDJMG-24-00087(2024年10月作成)