馬術に関するアシスタントの仕事にやりがいを感じ、日常でもアクティブに行動をしてきた中嶋千秋さん。ある日感じた体の不調から、わずかの間に自力では立ち上がれない状態になりCIDPと診断されました。現在は治療が奏功し、ご主人の亮さんとともに日常生活を取り戻しつつあるそうです。そんな千秋さんと亮さんに、二人でCIDPと生きることについての考え方やご経験などをお話いただきました。
異変を感じてからわずか数カ月で立てない状態に
最初は足にちょっとした異変を感じた程度でした。
「2022年の春先のことでした。足が上がりにくいな、階段の上り下りがしづらいな、足がつる回数が少し増えたなとは感じていましたが、そのときは単に運動不足で筋力が低下しているのだと思っていました」。
中嶋千秋さんは当初そう考えていましたが、やがて足を引きずって歩くようになり、5月になり足を専門にしている整形外科で受診をしたそうです。若いころに膝を痛めていたこと、そのときも変形性の膝関節症があったため、週1回の自費リハビリを3ヶ月やり、医療用インソールも利用し始めました。しかし、よくなる兆しはありませんでした。
「リハビリをしても、よく転ぶようになりました。そして、転ぶと立ち上がれなくなってきたのです。そして、だんだんと足の症状だけではなく手にも症状が出始めて。ペットボトルさえも開けられなくなりはじめました」。
そんなある日、千秋さんの生活を一変させる出来事が起こります。通勤途中に横断歩道で膝が抜ける状態になって真後ろに倒れてしまい、後頭部を強打してしまったのです。
「救急搬送されました。頭の外傷はたんこぶ程度だったのですが、その病院の先生に神経系を診てもらったほうがいいですよと言われていました。そのとき私は6年ほど単身赴任をしていたのですが、もう一人暮らしは厳しいと思い、泣きながら職場に電話して『すみません、私はもう無理です』と伝えました」。
自宅に戻ってからは大きな病院で検査を重ねました。MRIや神経電動検査、ルンバール(腰椎穿刺)等を行い、CIDPの治療が奏効したため確定診断に至りました。
不調が自分のせいではないとわかって安心した
もともと生活習慣病をお持ちだった千秋さん、実は確定診断が出て少しホッとしたと言います。そこからは家族に支えてもらいながら治療に取り組みました。
できることを当たり前に。気負わないご主人のサポートが支えに
確定診断を受けた頃は、歩くこともままならなかった千秋さん。ご家族の支えがとてもありがたかったといいます。
「とにかく主人がいろいろと助けてくれました。多分、心配なことは主人もあったと思います。でも、私がことさら不安にならないような声がけやサポートをしてもらいました」。
当初はひとりで通院することさえできませんでしたが、ご主人の亮さんが仕事の都合をつけて全部付き添ってくれたのだそうです。亮さんにもお話を伺いました。
「病気がわかるまでは、彼女の仕事の関係で離れて暮らしていたので『体調が悪い』という話を聞いていただけでした。ふたりで旅行に行こうということになり、一カ月ぶりに会ったら、歩くのが不自由な状態になっていて。これは大変なことが起きていると思いました」。
しかし、確定診断後は現代の医療を信じて、悩み過ぎることなく千秋さんのサポートする決意を固めます。
「仕事を休まなければならない日も増えてきたので、妻の病気や入院等の必要な情報を開示しつつ周りの人に『よろしくお願いします』といった感じで伝えています。人によっては病気のことを周りの人に話したくない、一切外に出したくないという方もいらっしゃるとは思いますが、必要最低限なことは伝えていればサポートを受けられる職場だったので、その点はありがたかったですね。もちろん、こちらからある程度の情報を出さないと周りの人の納得を得られないと思うので、話せる範囲のことはどんどん話していきました」。
先読みせずに頼まれたサポートに徹しています
「夫婦といえども別の人間なので、100%のサポートはする必要がないのかなと思います。そう思っているからこそ、別にそれが負担っていうのは感じなかったのかもしれませんね」。
治療とリハビリで健常時の80%の状態まで回復
「幸いなことに、最初の入院治療とリハビリから手ごたえを感じることができました。リハビリの先生や杖の支えなしに、自力で立ち上がることができて、本当にすごく嬉しくて、リハビリの先生に『よかったね』と言われたときは泣いてしまいました。それくらい成果が出たんですよ」と力強く話してくれた千秋さん。
現在は、病気になる前の80%位までは戻ってきていると言いますが、周囲の方々の配慮もありお仕事は在宅メインでされているそうです。
自分はこれをやりたい、あれをやりたい、これもできるはず、そう思うこともある
「私自身は大丈夫だと思っていても、周りがそう見てくれないことがあり、仕事の内容的に、海外出張などのあまりハードなものは無理だろうということで抑えた状態になっています。配慮をしていただいていてとても感謝しています。でも、もう少しやらせてもらえたらなとも思います」。
できなかったことができるようになることを信じて
この病気は正直なところ、おそらく私が生きている間は100%の状態に戻る治療は無理なのかなと思っています。諦めないといけないことも出てくると思います。でも100%ではないにしろ、治療やリハビリを続けることで、できなかったことができるようになることもある。こうやって今の状態、日常生活が問題なく過ごせる状況、それがずっと死ぬまで続いていくというのが私にとってのゴールです。
紹介した発症、診断の経緯および症状は個人の経験に基づいたものであり、全ての方が同様の経過をたどるわけではありません