CIDPの原因を詳しく知る
CIDP(慢性炎症性脱髄性多発根神経炎)は人によって症状のあらわれ方が異なる自己免疫疾患で、手足の脱力感やしびれを引き起こします。自己免疫疾患は、免疫系が誤って自分自身の体細胞や組織を攻撃することで発症します。
CIDPは症状が長く続く人もいれば、症状の安定と再発をくりかえす人、症状が1~3年続いた後は再発しない人もいます。
CIDPにはさまざまなタイプがあり、それぞれの症状は異なっていますが、いずれも手足の変化に関連しています。
健康な神経細胞
神経細胞(ニューロン)には神経の信号として電流が流れていて、脳と身体のさまざまな部位との間の情報の伝達を担っています。
健康な神経細胞は、ミエリンという脂肪とタンパク質でできたさやのような髄鞘に覆われています。髄鞘には電線のカバーのように電流が神経細胞から漏れないようにする働きがあり、その働きによって神経細胞の素早い情報の伝達が可能となっています。
CIDP患者さんの神経細胞
CIDPは髄鞘が徐々に傷つけられていく病気です。そのため、CIDP患者さんには手足の脱力感や感覚喪失がみられます。
CIDP患者さんの神経細胞の髄鞘が傷つけられる原因
CIDPの原因は完全には解明されていませんが、いくつかの研究で、CIDPでは病気の原因となる免疫グロブリンG(IgG)抗体が作られることがわかっています。
CIDPではない人では、IgG抗体は病気から体を守るのに役立っており、自分の体の成分と結合したり、攻撃することはほぼなく、病気から体を守るのに役立っています。
しかし、CIDP患者さんの体の中では、神経の髄鞘に結合するIgG抗体が作られる例があることがわかっています。こうした自分の体の成分に反応するIgG抗体を「IgG自己抗体」と呼びます。
CIDP患者さんのIgG自己抗体は、末梢神経系(脳や脊髄からの情報を腕、脚などへつなぐ神経系)の神経線維を覆っている髄鞘を攻撃して破壊します。CIDPの症状は、髄鞘が傷つけられたことで末梢神経系の情報の伝達ができなくなったり、遅くなったりすることで起こります。
CIDPの症状には以下のようなものがあります
- 洗髪の際に腕が上がらない
- 箸が使いづらい
- 足がしびれる
- スリッパが脱げやすい
- 歩きにくい
こうした症状は治療により改善しても再発を繰り返すことがあります。
また、徐々に障害が蓄積して、四肢の筋肉が痩せてくることがあります。その場合には杖や車椅子での移動が必要となる場合もあります。
CIDP用語集
CIDPとともに生きる上で、知識は大きな力になります。ここでは、CIDP患者さんやCIDP患者さんをサポートする人々の役に立つと思われる医学用語をいくつか紹介します。
- 自己免疫疾患:免疫系が誤って自分自身の細胞や組織を攻撃する病気
- 再発:一旦改善した症状が再び現れたり、悪化したりすること
- 末梢神経系:脳や脊髄と手足などの筋肉や感覚を連絡する神経系
- ニューロン:神経細胞
- 髄鞘:神経細胞を取り囲む保護層で、電気的な信号が神経細胞から漏れないようにする絶縁体の役割を果たす。
- IgG自己抗体:CIDP患者では、末梢神経系の髄鞘を誤って攻撃する抗体
*1:日本神経学会 監修: 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー, 多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン作成委員会 編集: 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー, 多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2024, 81-82, 南江堂, 2024. より作成
*2:日本神経学会 監修: 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー, 多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン作成委員会 編集: 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー, 多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2024, ⅸ, 南江堂, 2024. より作成
*3:Aotsuka Y et al. Neurology. 2024; 102(6), e209130.
JP-VDJMG-24-00087(2024年10月作成)